自作小説

【第1部第2章18節】Crisis Chronicles

 ――――――――これより、依頼(ミッション)の説明を行います。

 今回、ギルド『GunSlinger-ガンスリンガー-』の皆様に完遂して戴くのは、或る魔導機器の搬送任務です。

 では先ず、後の説明に対する理解を容易にする為に、この依頼を貴方方に提示した経緯について情報を開示致します。

 本日より4日前、我々治安維持局は人工魔導衛星ソルスに依り、この第三都市に近付きつつ在る不穏な生物集団の存在を観測しました。その集団は衛星画像を見る限り、本来ならば在り得ない組み合わせの大型野生生物に依り構成される大規模な群れでした。

 このような事例は長らく続いて来た人類の歴史を垣間見ても前例が無く、早急な対処が必要であると判断した為、第三都市の保有する1000名の治安維持局員の内、その中でも『Shields-シールズ-』部隊に属する戦力の8割―――40名を「群れ」の通過予測地点であるゲヘナ晶原に配置しました。

 目的は「群れ」を構成する全個体に対して広域幻覚魔法を施し、これを解散させるというモノでした。しかし、身を潜められる場所や障害物が多数存在するゲヘナ晶原を作戦地点に選択したのは大きな間違いでした。

 その利点を逆手に取られ、先に隠れ潜んでいた狡猾なスフィアスライムの集団に強襲され、壊滅的な被害を被りました。これにより現在、辛うじて生還した「Shields-シールズ-」の戦闘員15名以外の25名がゲヘナ晶原内で孤立している大変危険な状態です。

 正確には…………いえ、これについては後ほど説明しましょう。

 「Shields-シールズ-」の戦略が瓦解し連絡が途切れる直前に、彼等は携帯していた小型ポータルにより我々に一匹のレティクルマウスを転送していました。

 探せば何処にでもいる普遍的な生物種ですが、X線画像を撮影するとその生物の頭部からは明らかに他の個体とは違う生体構造が見受けられました。それは大脳の表面に取り付いて脈動しており、同時に特殊な魔力波長を継続的に発している為、我々はその寄生生物を「Diva-ディーヴァ-」と名付けました。

 数日を要した多種の分析により、この生物が接触感染によって寄生、開裂増殖することが判明しました。しかし、この生物の恐ろしい点はその繁殖力ではなく、宿主とした生物の中枢機能を完全にその支配下に置き、操作するという性質です。

 故に我々の頭には直ぐに最悪の事態が思い浮かびました。もしかすると、ゲヘナ晶原に取り残された『Shields-シールズ-』に所属していた者達は、既にこの「Diva-ディーヴァ-」に宿主とされているのではないか。現在都市に接近している生物群も或いは……と。

 私共の予想が当たっていた場合、この生物は過去最悪の生物災害を起こし兼ねない危険な代物ということになります。

 以上の理由によって、我々は少数精鋭と謳われる貴方方『GunSlinger-ガンスリンガー-』に急遽応援を要請しました。これは多数の人員を派遣すればその数に応じて敵に戦力が吸収され、敵の数が増す危険性を考慮に入れての判断です。

 加えて、特に戦闘に長けた部隊長クラス二名が敵の手中に堕ちていることが懸念される今、生半可な戦力では太刀打ち出来ず、彼等の得意とする情報搾取魔法による作戦の漏洩を防ぐ為にも三名以下による隠密作戦が提案されました。

 次に、これから貴方方に向かって戴くゲヘナ晶原の現状について説明します。

 現在、晶化降水(レイン・フォール)が降り注ぐ汚染地帯として名高いゲヘナ晶原は、獰猛な多種多様な野生生物達が息を潜める巣窟と成り果てています。

 ゲヘナ晶原に巣食う生物には、我々が「Diva-ディーヴァ-」と名付けた寄生生物がその生態系に巣食い、完全にその支配下に置いていることが高確率で予想されます。

 その最中に自分達を向かわせるなど正気の沙汰ではない。―――――と、そう考えられるのも無理は無いでしょう。しかしご安心ください。貴方方に運んで戴く魔導兵器、それこそが貴方方の矛で在り、同時に強力な盾の役割を果たします。

 その兵器は「HumptyDumpty-ハンプティ・ダンプティ-」と呼ばれる小型化された広域魔力爆弾であり、今回の依頼に際して独自に開発されたこの世にただ1つだけの急造の消耗品です。

 故に任務中の破損、喪失、奪取には十二分に注意を払ってください。その兵器無くして、本任務の達成は在り得ません。

 そしてこれをゲヘナ晶原の中枢―――――通称、ラクリマの丘に設置し、起爆することが今回の任務の最終目的となっています。

 話が変わりますが、先ず、この兵器について説明しましょう。

 「Diva-ディーヴァ-」については人工生物で在る事以外判明している事はほぼ皆無ですが、「HumptyDumpty-ハンプティ・ダンプティ-」の使用により、宿主を一切傷付けること無くディーヴァのみを消滅させることが可能である事は実証済みです。

 と言うのも、「Diva-ディーヴァ-」はある一定周波数の魔力波を極端に嫌い、過度にその波長を受けると魔力素へと分解される事が明らかになったが故に開発されたのが、この対ディーヴァ兵器です。

 急を要した為、支給数は一つのみとなっていますが、その効果は絶大です。晶原の中心部に配置し起爆させると、半径20キロメートルにも及ぶ魔力空間を形成し、その内部に存在するディーヴァのみを選択的に消滅させることが可能です。

 ゲヘナ晶原ではご存知の通り、多量に存在する魔晶石(ラクリマ)の発する妨害波長の相互干渉により外部干渉型の魔機、電子機器の使用が制限されます。故にそれらが干渉し打ち消し合い、一種の虚無空間と成っているゲヘナ晶原の中心部、ラクリマの丘に設置し起動して下さい。

 唯一、その場所でならば使用することが可能であり、起動にさえ成功すれば周囲の妨害波長をも呑み込み、一定の効果が保証されます。――――――続いて、補足事項について説明します。

 作戦中、数多くのディーヴァに依る苛烈な妨害を受けることが予測されます。故に、貴方方に試作型魔法銃、体部強化型耐傷害魔法コートを始めとする最新鋭装備を含む支給品16点を提供するという許諾を得ました。

 試作型魔法銃は従来までの魔法陣を施した銃身、銃弾に魔法効果を付与して放つ魔弾に加え、これまでは魔力特性を維持したままの圧縮技術に難が在り、完成を先延ばしにされていた技術であった文字通りの魔力の塊、魔力弾を撃ち出す銃器です。

 これにより有事の際の残弾補充に困窮せずに済み、これ迄以上にバリエーションに富んだ戦法も可能となります。

 支給した体部強化型耐傷害魔法コートは「Shields-シールズ-」にも常備されている高度な魔科学技術により編み上げられた信用に足る逸品です。

 任務中、常にこのコートを着用し、肌身離さずいることを強くお勧め致します。何故ならば、ゲヘナ晶原には晶化降水(レイン・フォール)と呼ばれる晶化性の非常に高い液体を不定期的に降らせているからです。

 この液体が皮膚に付着すると角質がクリスタルに覆われたように硬化し、癒着します。そうなれば機動性が大幅に削がれ、全身にこれを受け続けると、生きながらに琥珀にされるでしょう。これは比喩表現ではありません。

 そこで種々の劣悪な外界環境に対抗する為に生み出されたのがこのコートです。この魔法コートは5日間分の晶化降水を退ける防護魔法(ディフェンシヴ)で表面を多重コーティングされています。同時にこれはこの任務が急を要することも意味しています。

 それは「Shields-シールズ-」が消息を絶った時間から既に4日が経過しているためです。魔法コートの摩耗具合がその効果時間にも影響する為、保って残り10時間ほどが彼等の生還限界時間ということになります。

 なので、あなた方に託す依頼には副目的(セカンドオーダー)として、その地で消息を絶った「Shields-シールズ-」の戦闘員25名の捜索と回収の一端も担っているとお考え下さい。

 事態は急を要しています。―――けれど、これだけは忘れないで下さい。

 自分達の命を、何よりも先ず最優先に考えて行動して下さい。そして、他者に頼らねばならなかった我々の無力を恨んで下さい。

 これが生き恥であるということは重々承知しています。しかし、我々には仲間で在った彼らをこのまま放っておく事は出来ません。都市の治安維持に支障を来す為、これ以上、この依頼について人員を割くことすらも我々には出来ません…………

 だから、心を殺して再度、貴方方に請います。

 ―――彼等をどうか……どうか、救っては貰えませんか……。

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