UADバングルの通信回線を切断し、口元の歪んだ笑みが暗闇の中に巣食う。
その場には唾液を含んだ舌先で乾いた唇を潤し、喉の奥を嬉々として鳴らす男の姿が在った。
「ククク……こうしてまた好機が巡ってくるとハ、ナント運がいいコトでしょうカねェ!」
オーカーによる助言で不穏分子をクルス霊森に焚き付けたは良いが、悪運に見初められでもしたのか、しぶとくも奴等は再び都市への帰還を果たした。
一方には不十分な事前情報と共に不相応な依頼を宛てがい、そして全滅した頃合いにもう片方も彼の地へと追いやった。
当初の予定としてはこれで邪魔者を一掃出来る筈だった。しかし結果として想定は瓦解し、依然として排除対象は尚も健在。
これは一重に奴等の生存能力を甘く見ていたが故だった。伊達にランク1に執着していたわけではなかった事は確かなようだ。
最早これ以上は直接刺客を送る他に排除方法が思い至らなかったが、アレはまたも自ら死地へ赴こうと宣(のたま)う。
全くお偉い騎士(ナイト)気取りもいいところだ。一個人が出来ることなど、たかが知れているというのに……。
「しかしマァ、そのお陰で再びこの身に好機(チャンス)が訪れたのデスシ……その精神には敬服致しますよ、ナイトサマ……クックック」
グラスに注がれた琥珀色の液体をごくりと飲み干し、零れた雫が頬を伝い床へと落ち、同心円上にその径を拡げる。
その病的に白い肌はアルビノ。色彩を失った皮膚。それは爬虫類……特に白い蛇を連想させた。
「とは言え此方にも体裁はあるのでね、相応の装備は支給しますよ……精々頑張ってくださイ。次に地獄から這い上がってきた時にハ……ワタシ自ら……」
眼前に展開する幾つもの虚空に浮遊する立体モニタ。ブラインドシャッターで日光から遮断された自室に居ながら、フロントにある監視カメラにより第八都市の全ての内情を把握していた。
警戒対象が消滅するのは望むところだが、数時間前から第三都市に接近しつつ在る「何か」も気掛かりだった。
彼にとって理想の脚本(シナリオ)に警戒対象と「何か」との共倒れ以上のモノは無い。故に互いを道連れにし得る可能性(武装)を与えようと趣向を凝らした。
最悪「何か」を特定し、どちらか片方が消えるだけでも僥倖足り得る。そして残った方を私兵(マレブランケ)に始末させればよい。
人外とギルド所属者の死歿(しぼつ)ならば、治安維持局局長という肩書きを使って幾らでも内々に揉み消すことが出来る。
そう考える理由はギルド統治機関の上位機関が都市治安維持局だからだ。彼はその中でも局長という立場に在り、同時に"蒼の翼(ネクストフォード)"の理事長の任も兼ねている。
「クフフ……もう誰もワタシに命令することなど出来はシナイ!もう誰もワタシに歯向かうことなど出来はしないンダッ!」
リヒター・オブライエンは上機嫌で琥珀色の美酒を煽った。