自作小説

【第1部第2章25節】Crisis Chronicles

 ―――――――先行させた個体が致命傷を負い引き上げたか。

 あの七体は成熟したムピロスクをベースとしてKRS(キルライドスナッチャー)を寄生させ、自衛本能(セーフティプロトコル)を強制的に解除した取り分け優秀な尖兵だったのだが、まぁ負けたのならソレまでだったということだろう。

 この地(ゲヘナ晶原)に撃ち落として間もなく、周囲環境をサーチする時間すら満足に与えることなく刺客を差し向けたというのに、数分でものの見事に撃退するとは………第三都市も本気というわけか。

 状況判断能力と戦闘力だけで言えば、KRSに感染させた急造の生体兵器など、到底当て馬にさえならないだろう。

 こうしている間にも、敵は直線的にこの晶原の中心であるラクリマの丘へと向かっている。

 其処から察するに、あの丘の中心点で何か仕掛けを起こすことは明白だ。それまでに排除しておいた方が懸命だが―――

 我々の前身となっている治安維持部隊。彼らが壊滅と引き換えに簡易ポータルで転送した下位個体(レティクルマウス)。

 それが都市の手に渡ってから既に数日が経過している。アレが細部まで解析され、我々への対抗策が講じられていても何ら不思議ではない。寧ろ想定の範囲内だ。

 送られてきた敵数が二人ということからも、何かしらの切り札を持っているとみて、まず間違いないだろう。

 それにしてもあの紅髪と銀髪の二人組――――――恐ろしく強い。

 銀髪のほうはガンスリンガーの頭目として、容易にアーカイブスの検索に引っ掛かったが、紅髪のほうは完全に戦力が未知数だ。

 ムピロスクからの情報共有により、銃器と刃物を多少扱えることは見て取れた……が、それだけでこの差し迫った状況の解決に向けられることはまず有り得ない。

 彼女自身も何かしらの隠し玉を一つ……或いは複数持っていると判断して動いたほうが賢明だろう。

 確実に仕留め切るには、此方も相応の戦力喪失を想定する必要があるか……。

 そうなるとまず、力量の知れたユリア・ノーチェスよりも先に、紅髪の情報を優先的に手に入れる必要がある。

 まぁ、真向から相手取る必要はない。雑兵共に数で攻めさせ、一瞬の隙を突けば奴等が隠している「対抗策」もあえなく詳(つまび)らかになるだろう。

 ―――さぁ、早くかかってこい。そして歓迎しようじゃないか、我々の新しい仲間として。

 そしてそのまま都市へと攻め込み、4S-Systemの制御中枢を奪取する。

 男は口元を曲げて微かに嗤い、これから始まろうとしている戦いで享受し得る高揚感に、僅かな期待を向けていた。

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