ギルド統括機関「フィンガム」第三都市支部―――クラッドビル。
豪奢な高層ビルの玄関口に据えられた自動ドアを前で、二人の少女は歩みを止めた。
見上げた黒塗りの構造物は天高く聳(そび)え立ち、あくまで公共施設として敷設されているにも関わらず、不遜にも来庁者を高みから威圧的に見下ろしている。
外壁に精緻に並んだ黒色の大理石は太陽光を貪欲にも貪っているかのように、来庁者に対し深い陰影を落としている。
本来であれば一切臆することは有り得ない―――が、これから言い渡されるであろう作戦内容を慮(おもんぱか)ると、未だ見ぬ死の危険から生じた不安感が足裏から這い上ってくるようだった。
ユリアとクレイズは互いに視線を交わし、息を合わせるように軽く頷き合う。
その表情には若干の不安が垣間見えるが、結ばれた信頼関係が己の克己心の下支えとなり、目的地までの足取りを軽くしてくれた。
正面玄関に辿り着くと、導電性強化パネルに内包された生体認証を受け、流れるように自動ドアが開く。
磨き抜かれた風除室の床を通り過ぎると、フロントには昨日とは別の男が二人の来訪を待っていた。
あの時とは打って変わり、受付係の男からは暗澹たる雰囲気は発せられていない。そればかりか、二人を認めると若干口角を上げた後、恭しく軽く会釈まで行ってのけた。
少女達は疑問符を纏いながら、些かの懐疑心をよそに、男の目の前へと辿り着いた。
辺りには3人を除き、他に来客者は見受けられなかった。
一呼吸の静寂を置いたのち、男は二人へと穏やかに話しかけた。
「ガンスリンガーのお二方ですね?お待ちしておりました。……では、此方へどうぞ。依頼についての詳細な説明を致しますので。」
男はまるでホテルマンのように丁重にお辞儀をすると、先導するようにゆっくりと建物の奥へ進み始めた。
ユリアとクレイズは受付係のあまりの対応の良さに、さらに警戒心を強めた。
目の前のスーツの男性に付いて何度目かの曲がり角を通り過ぎ、同階の最奥に位置する部屋へと向かった。
「此方でございます。」
連れて来られた場所は広いカンファレンスルームだった。
部屋の中央には円形に配置された白いテーブルと机が20席ほど並んでおり、二人は手近な場所に隣り合わせで着席する。
「それでは、わたくしはこれで失礼いたします。扉の閉鎖後に説明が始まりますので……どうか、よろしく、お願いいたします。」
喉の奥から吐き出される最後の言葉は、男の本心から吐露されたものだったのだろう。
その声色には、僅かに悲痛な内情が織り交ぜられ、申し訳なさそうに呻くように念を押しているようだった。その後、男は一礼し、足音もなく部屋を出ていった。
出入口が閉まると同時、円卓の中央に立体映像が浮かび上がった。
宙に浮いた映像から、清澄な女性の電子音声声が流れ始める。
「――――――――これより、依頼(ミッション)の説明を行います。」
クレイズはいきなりの説明に若干戸惑いながら、横目でユリアを見る。
彼女は既に慣れた様子で、眼前の立体映像に集中しており、クレイズもそれに倣うことにした。