ノルクエッジによる高速走行が側面の景色を切り取り、同時に繋いでゆく。
それはまるで近年でも稀に見受けられるカメラで連射撮影されたネガの体を成しており、都市内から一切外出したことのないクレイズの目にとっては何もかもが新鮮に映った。
しかしそれも最初の数十分のみで、永遠と続く地平線に見飽きたのか、不眠不休で溜まった疲労のせいか、クレイズは自らの内から這い出る睡魔と戦っていた。
加えて同じ態勢のまま数時間維持し続けていた為、体中が軋むような痛みを発していた。
「ユリア…………一体、後どれくらいで都市に着くの……?」
力なく尋ねるクレイズにユリアは透き通った声の調子で返した。
「そうは掛からないわ……後、数十分ってとこね」
ノルクエッジが風を切り裂き、その空気塊の断片が二人の少女の長髪を凪いでゆく。
現在の走行地点は最短の都市まで残り約50キロメートルの距離に位置しており、クルス霊森と都市の距離が約2000キロメートルだった為ノルクエッジが高速走行で約2時間を必要としていた。
「クレイズ…………そろそろ見えてくる頃じゃないかしら…………」
ユリアの肩から顔を覗かせ前方を見据えると、地平線の先に丁度都市が出始めた時だった。
残り約20キロの地点に差し掛かると衝突を防ぐ為に高速転移走行は終了し、ゆっくりと遠方の都市はその規模を伺わせ始めた。
「凄い……外から見ると都市ってあんな感じなのね……。」
遠方から見ても都市は端が見えない程、左右に広がった長方形に見えた。
都市の規模は平均面積約350万キロ平方メートルにも迄び、中心部では高度数百メートル程の建造物が立ち並ぶ。
地下にはガルドラインと呼称される大空洞が都市内の高速移動用に存在しており、空洞の中心部分は大規模の円柱が建設されている。
円柱の内部には都市全域から内壁を魔法によりコーティングされた超長距離ダストシュートによって集められた廃棄物や生活排水や排気ガスを魔力により分解、資源に再生する大規模廃棄物処理施設が位置しており、都市の生命線となっている。
この分解生成過程で得た余剰電力は都市機能を維持する為に使用されており、都市エネルギーサイクルの効率を極端に上昇させている。
原子単位まで分解された廃棄物は元素毎にインゴットに加工、または圧縮されボンベに貯蔵され都市の資源として再利用される為に各所に設けられた専用施設に再分配される。
それでも都市で使用し切れない程蓄積された原子の過剰分は適切な化合物、濃度に加工され外界に分散して自然のライフサイクルに還元している。
これらの魔科学の最新技術の粋を結集した技術により、リエニアは嘗て無い恒常性を保った平穏な暮らしを約束されていた。
「どう?外から都市を見ての感想は?」
「人間があんなものを造れるなんて……とても信じられないわ……ただ驚くばかりよ」
「そうねぇ……私はもう見飽きちゃったけど、そんなふうに思えた時期も確かにあったかもね……」
ユリアはギルドの仲間達と共に歩んだ過ぎ去りし日々を追憶した。
初めは互いに個別の道を向き、歩んでいた11人。それが稀有な出会いを経て意気投合し、助け合い、仲間と呼び合うようになった。
なまじ個性が強い分、互いの意見の落とし所を見出だせず喧嘩にまで発展したことも幾度と無く存在した。
それでも、仲間が窮地に陥れば必ず救いの手を伸ばすことを躊躇したりはしない。―――――――血の繋がりは無くとも、本当の家族だった。
だがそんな家族も、もはや自分の隣で微笑みかけてくれることは無く、救いの手を差し伸べてくれる機会も無い。
―――――――――しかし、言ってくれたのだ。いつまでもこの空から見守っていてくれると。私はもう一人でも、大丈夫だと。
みんな、私は大丈夫だよ。それに今は一人でもない――――――クレイズも傍にいてくれるから。
クレイズの事情が片付いた後にでも、立派な墓標を建てよう。私達がいつも一緒に居た、あの秘密基地にでも…………