自作小説

【第1部第1章27節】Crisis Chronicles

  氷の壁で到着を遅延させていた14体の人骨兵が再度ユリアへの攻撃を開始した。

  硬質な物体がかち合ったような音を周囲にばら撒きながら、亡者の集団は隊列を乱さず疾走する。

  十字架のネックレス、わずかに残った衣服、体格からその中に元メンバーの痕跡を確認する。

  その数――8体。内一つ、上半身のみで徘徊しているのはニーナの屍だろうか。

  脳裏に漂っていた一滴の可能性は完全に消え失せる。

  「やっぱり……みんな……」

  これから自分がやらなければならないことは既に決まっている。

  遠方に見える骸骨公はまだ一歩たりとも動いてはいない。

  自らがこの戦闘に加勢すれば戦況は変わるともしれないのに……一体なぜ……。

  迫る軍勢を前に、ユリアは答えに近付きつつあった思考を一時停止する。

  『先ずは、私の仲間達を返して貰うわよ――』

  銃口から放たれる二発の蒼の魔弾。

  しかし先頭を行く大型の楯を装備した人骨兵にその両方を弾かれ、その表面を凍結させるのみに留まった。

  加速の付いた突撃の前に、両者の距離は直ちに消失し――交錯する。

  敵の中には首から手榴弾の様なものを首から下げている個体も存在し、それが殺された「エルレア」の護衛であったことをつぶさに連想させる。

  骸骨公が戦闘経験のある人骨兵(コープス)を自ら近い場所に配置しておくのは常套手段か――。

  前方の個体が凄まじい運動量を伴ったまま大型の分厚い盾でユリアを押し潰そうとする。

  ――直線的な攻撃……一度右にフェイクを入れて、左へ跳ぶ――

  砂を蹴り、急激な方向変換で一体目を避け、低い体勢から右脚を伸ばし、駆ける対象の足を絡め、引き倒す。

  ズザァッ、と砂煙を上げながら、重装備の尖兵は地に伏す。

  ――次ッ!

  瞬間、暗闇から伸びた長槍による刺突が、正面からユリアの顔面を襲う――

  「――痛ッ……このッ!」

  頭部を左に振り、頬を掠めただけでそれを回避し、魔導式拳銃を即座に地面に放り、交差した敵の槍を握る敵の両手を掴み、背負い、投げ飛ばし、伏したままの盾持ちの人骨兵の上に落とす。  

  ガシャリッ、と大仰に叩きつけ、その衝撃で両者の骨格がギシリと軋む。

  『グオオオオオォォォォォッ!』

  ――背後から別の一撃。もはや後方へ振り向く時間はない。

  眼下に落ちた長槍を握り、左の脇から後部へと突き出す。

  この一撃が空を切った瞬間……自分は殺られる……――だが、

  『――手応え、有りね……』

  振り返ると、槍は敵の頭部を貫いていた。その人骨兵の手には魔力切れの振動剣。

  塵に消えるその手から、ヴィブロ・メッサーを回収し、左手に持ち、魔力を供給した。

  地面落ちた愛銃を膝のホルスターヘ回収し、握る剣で倒れた二体の頭部を断ち切った後、眼前の集団に向き直る。

  ――残り11体……少しキツいわね……。最初の攻撃でエレメント・グレネーダの残量は2つだし……。

  ユリアは肩で息をしている――しかし、こんなところで往生してはいられない。

  敵集団は最早目前まで迫っていた。

  酸素を肺へ取り込む間もなく、ユリアは右手でポケットに入った短い鎖付きの球体を取り出し――敵と交差する。

  衝突するように再前列の敵へと接触し、時計回りにターンしながら、ユリアを掴もうとして空を切って開いた人骨兵の右脇の空間に滑り込み、敵集団をすり抜けた。

  『グォ……』

  先ほどユリアと接触した人骨は自らの胸中に強い魔力を感知する。

  キュィィィィンと、高音を放ちながら胸部に刺さっていたモノ――それは短い振動剣(ヴィブロ・メッサー)だった。

  その刃は何か鎖のようなものを胸骨に縫い止めていた。鎖の先には黒い球体――エレメント・グレネーダ――。

  「――凍り付けッ!」

  ガキンッという大仰な音と共に大氷塊は形成され、周囲の屍集団を包み込み、敵の戦力を削ぎ落とす。

  集団の中心として広がった氷塊は8体もを飲み込んだ。

  ユリアはホルスターから魔導式拳銃を引き抜き、まだ行動可能な3体を見据える。

  「魔弾装填――振動弾(シェクト・バレッド・リロード)」

  魔弾を放ち、連続で氷塊周辺の地面に穴を穿つ。

  支えを失った氷塊は転がり、その圧倒的な質量で片側2体の骸骨兵の体を薬研のように擦り砕く。氷塊の下からは間欠泉のように人骨の残霧が噴出した。

  ――残り1体。

  その時、高質量の物体がユリアの側を駆け抜けた。

  右方へ前転して少しでも回避しようとする。だが、体勢を立て直した直後に鋭い痛みを感じ、見ると膝に薄い切り傷を負っていた。

  白い肌をなぞり、極細小の川のように流れ出る赤色の血の滴。

  『人骨兵(コープス)との戦闘に気を取られて油断した……』

  ――最も忘れてはならない存在に注意を払うことを数秒間だけでも忘れていた……。

  氷塊の前に立つのはボロボロのマントをその身に纏った骸骨公(スカルハンター)。

  その外套の後背部からは刃物を伴った鎖が突出しており、まるで別な生き物のように蠢いていた。

  『それにしても、何故今になって出てきたの……』

  ユリアは魔弾を骸骨公へ撃ち込む……しかし、骸骨公の纏う霊体障壁に阻まれ、それは叶わない。

  骸骨公が膝を曲げ、走行姿勢を整える。

  ――来るッ!

  骨の足は真下の地面を力任せに蹴り、目の前の銀髪の少女に向かい、霊体障壁から手中に形成した大鎌を構えた。

  ユリアは咄嗟に残り1つのエレメント・グレネーダを自分と骸骨公の中間地点へ放り投げ、空中でそれを撃ち抜いた。

  凄まじい爆音が8メートル先で生じ、微小の氷の粒を周辺に撒き散らしながら周辺を吹き飛ばした。

  ユリアは爆発直後に左方へ跳躍し、地面に伏せていた。降り積もるような氷粒が周辺に散乱する。

  「……う……ぁ……何……で……」

  氷粒の中から身を起こしたユリアは衝撃で言葉を失った。

  膝を付く彼女の傍らには大鎌を振りかぶった骸骨公が平然と直立していた。

  ――殺られる。

  そう思考した瞬間、風を断ち切る音が周囲の空間に響き渡る。ユリアは本能的に両目をギュッと瞑った。

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