自作小説

【第1部第1章26節】Crisis Chronicles

  クレイズはユリアが正面へと走った瞬間、自分は真逆の方向へ走った。

  これからユリアは仲間達と決別するため、真っ先に赤いバンダナを肩に付けた人骨兵と邂逅するだろう。

  ユリアが自身の憂いを祓えるように、彼女の仲間達の無念を晴らせるように、事が終わるまでは――絶対に邪魔させてはならない――。

  ――正面。

  自分へと飛び掛かって来るのは総勢約20体の人骨兵(コープス)。加えて、全員が何らかの刃物を身に着けている。

  対する自分の武器は一発の魔法と一本の振動剣(ヴィブロ・ブレード)。

  この剣が何体まで切り結べる耐久度を持っているのかは未知数だが、今までの手応えから、まだ限界が遠いことは予測できる。

  右脚に力を入れ、加速。次いで一体だけ群れから先行して向かってきていた一体と交錯――

  互いに当たれば必殺の間合い――先に動いたのは、人骨兵の腕だった。

  抜き身の細剣を左手で上段から振りかぶって来たそいつの斬撃が自分の身体へ到達するまで――目測0.3秒。

  クレイズは上体を低く保ち、振りかぶってくるヤツの左腕が通るであろう軌跡上に振動剣を軽く振るい、凪いだ――

  ――。

  あまりの切れ味に切断音が発生せず、ただ、目の前の屍の左腕は旋回しながら宙を舞った。

  バランスが瓦解している敵に、体勢を立て直す時間をくれてやる慈悲はない。

  懐に入ったまま弧を描くように剣を手首だけで旋回させ、頭(こうべ)をこちらに差し出していた剥き出しの頚椎を切断する。

  サラサラと砂が流れるように塵へ帰化した個体を尻目に、今度は同時に飛びかかってくる群体に目を向けた。

  前面180度。その中の全ての方向から自分を殺そうと、凶器が突出してくる。

  ――逃げ場は後方のみ。しかし、ユリアが戦っている戦場に少しでも雑魚を放ってしまう可能性を生む訳にはいかない。

  本能的に、クレイズは可能な限り上へと跳躍した。

  明確な考えが、作戦があったわけではない――そんなものは、回避した後で考えればいい。

  ――振り下ろされる7本の錆びた直剣。

  それらは全て空を切り、慣性のままに地面を浅く削った。

  直後、再び地面への加速が始まる。

  クレイズは七体が形成する円環の外殻へと落ちてゆき、着地の直前、手前の一体を頭頂から正中線沿いに両断した。

  このまま正面の6体に斬り掛かろうとした時――微かに、砂が擦れる音を後方に捉える。

  振り向きざまに、自らの第六感に従って振動剣を振るう。

  キィンと何か硬いものと接触した感覚が右手を伝い、筋肉が痺れる。

  「――痛ッ!?」

  視界に入ったのは大斧を弾かれた体勢の、巨躯を持つ人骨兵だった。

  クレイズは周辺の人骨兵から距離を取る。

  痺れた右手にあまり力が入らない。完治するまでに後、数秒は掛かるだろう。

  クレイズをもう逃すまいと、7体の人骨兵は歓喜を伴って得物を振りかぶりながら突撃してきた。

  やはり雑兵とは言え、多対一では分が悪かったのか。

  クレイズは骸骨公へ使う筈だった一撃を脳裏に浮かべる――しかし、

  『いや、だめよ……これはあの霊体障壁を打ち破る為のもの。ここで使ってしまったら、多分あの怪物を倒すことはできなくなる……』

  クレイズは首を振り、思考を巡らせる。

  『敵の装備は直剣6本と大斧一本……一体、どうすれば……』

  視界の端に、一体の人骨兵と向き合うユリアを捉える。

  『向こうはもう、大詰めみたいね……』

  右腕が痺れから回復するのは多分、正面の骸骨兵達とぶつかる直前……なら、一か八か……。

  クレイズは向かってくる7体の懐に飛び込んだ。

  自分に向かって振り下ろされる幾多の凶器。月明りが刀身に反射し、鈍い光が煌めく。

  これらの内、一本でも当たったらそこで自分は死ぬことになる。その場合、この場に存在する敵は全てユリアの元へ向かうだろう。

  そんな負担は、絶対にユリアに負わせることは出来ない。――ならば、

  『絶対に、殺されてたまるか』

  これまでの人骨兵達の行動を観察したところ、彼等は絶対に味方と相打ちにならないように攻撃を繰り出していた。

  『だったら、こうすれば……!』

  ――敵集団との影が重なる。一体目の斬撃を上体を反らして避けた後、自由に動かせる足でステップを踏み、体重移動のみで敵の体と体の僅かな合間を縫って攻撃を回避する。

  この状態でクレイズを狙うと仲間にも被害が及ぶ可能性を無視できず、人骨達は思うように動けない。その結果――隊列への侵入を許してしまう。

  ここは敵隊列の中心、大斧を装備した大柄の人骨兵の側面の通過した時だった。

  「さっきはよくも……やってくれたわね!」

  痺れから回復した右腕で振動剣を持つ力を強める。

  クレイズはそのまま、その太い大腿骨(だいたいこつ)をすれ違いざまに切断する。

  崩れ落ちる人骨兵。その巨体は周囲の仲間を巻き込み、地面に倒れ伏した。

  体勢を保ったままの敵は三体。クレイズは並んで立つ二体の人骨兵へと疾走し、まず一体目の頚椎を水平に切断。

  まだ、もう一体の人骨はクレイズの行動に対応できていない。死の塵を空気中に撒き散らす人骨兵から彼女は直剣を奪い、その得物で隣接するもう一体の頭部を粉砕する。

  ――残り一体までは、さすがに距離がある。

  クレイズは即座に、左手で持った直剣を投擲した。

  ガキンッと言う音とともに直剣は敵の肋骨へと命中したが、直剣は錆び、細身のため人骨兵を破壊することは叶わない。しかしその衝撃でその肢体を地面に弾き倒した。

  「――待たせたわね」

  足元に転がり、起き上がろうとする4体の人骨兵へ歩を進め、その頭部を手中の振動剣で速やかに断つ。

  同時、直剣を当てた個体が起き上がり、凶器を振りかぶろうとする。

  「ッ――でも、遅いっ!」

  地面を蹴ったクレイズは人骨兵が得物を振りかぶると同時にその両腕ごと脛骨を切断した。膝を突いて崩れ落ちる残骸。

  丁度、敵の第ニ陣が遅れて到着したようだ。

  11体の残敵を前に、少女の戦いは続いてゆく。

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