自作小説

【第1部第1章24節】Crisis Chronicles

 「……それじゃ、そろそろ行きますか」

 一時間の休憩を終え、ノルクエッジの積荷で銃弾と様々な武器を補充したユリアは木の根元にもたれているクレイズに声を掛けた。

 初回の突入時に銃弾は殆ど持って行っていた。故に魔弾の残量は正直心許無かったがユリアは気を引き締めることにした。

 「そうね、これ以上休んでいても埒が明かないものね…………よっと」

 クレイズは立ち上がった。その右手には、ユリアが貸した長い振動剣が一本。武器と呼べるものは他に見受けられなかった。

 「クレイズ、何か他に武器が必要なんじゃない?本当にその装備で行くの?」

 クレイズは微笑んで、当然のように頷く。

 「さっきの戦いを見て貰ったとおり、私はスピード重視だから出来るだけ身軽にしておきたいの。だからこれで十分よ」

 「それならいいけど、後でもっと武器が欲しいって言ってきても引き返せないわよ?」

 「ええ、分かってるわ。それに私は4Sで剣術プログラムを毎日採ってて、学園一のスコアを出したから期待してていいわよ!……まぁ、実戦は勿論今日が初めてだけど……。」

 ―――――まぁ、本当の理由はそんな事ではないのだけれど―――――。

 「ほんとに大丈夫かしら……。」

 ユリアは得意げな素振りのクレイズを見て、少し微笑んで肩を竦(すく)めた。

 せめてプロテクターくらいは付けて欲しかったが、本人が嫌がったのでクレイズは本当にその身一つで再び戦地へ向かう事となった。

◇◇◇◇

 ―――――これも、持って行かないとね……。

 それはクレイズの休憩中、ノルクエッジの武器貯蔵スペースを漁っていた時だった。

 ユリアの視覚の中心を占めていたのは眼前にある二つの球体。これは嘗て、ギルド内で決めたことだった。――――本来の用途で、絶対に使ってはならない。

 幾多の頂点をその表面に持ち、限りなく球体に近い多面体―――――自決用の指向性爆弾。

 緩衝材に内壁を覆われた黒色の小型ケース。内部のソレを無造作に手に取り、仕舞い込む。

 銀髪の少女の心には荒野のように乾いた冷たい風が吹き荒(すさ)んでいた。覚悟と仲間への負い目が追い詰められたユリアの内側を苛(さいな)む。

 もう自分は後に引けない。残された数少ない選択肢をせめてこれ以上減らさぬよう、少女はその手にジョーカーを掴んだ。

 ―――――ごめんね、みんな……もしもの時は―――――。

◇◇◇◇

 二人は段々と闇が深くなってゆく森の中を歩き続けた。

 目指すは最終戦闘地点から森の中心。

 早ければ数十分で森の中心へと帰る途中の骸骨公と再び見(まみ)えることになるだろう。

 何らかの方法を採り、早々に中心へ骸骨公が帰っているなら時間は掛かるだろうが、その時はそこで決着を付けるだけだ。

 無理に走って体力を使う訳にはいかない。二人は逸る足を抑え、早歩き程度の速度で骸骨公を追う。

 今度は、こちらが狩る側だ。慎重に、狡猾に、確実にやり遂げてみせる。

 ―――――不意に、不自然な擦過音。

 「来るよ、ユリアッ」

 だが、その言葉と同時に木の影から飛び出してきたのはたった一匹の白骨の狼。

 今更そんな攻撃は二人には通じる筈もなく、一撃の下に両断し塵へと還す。

 「へぇ、学園一は伊達じゃないのね」

 「……まぁ、ね」

 この霊体霧で自分たちの位置は敵に知覚され、寄ってくるだろう。

 待ち構えるために、二人は数分間その場で待機した。

 ―――――――。

 しかし、数分が経過しても敵が集まってくる気配はない。

 「どうしたのかしら?」

 ユリアがクレイズに尋ねる。しかし問われた彼女も首をすくめ、判らないとだけ意思表示した。

 再び骸骨公を求めて歩き続ける二人。

 ―――――――――。

 それから、きっかり1キロメートルおきに白骨狼が配置されているのみでそれ以外のトラップは無かった。

 先の脱出戦で骸骨公の周囲に健在していた白骨狼(スカルハウンド)の総数は15匹。

 そしてその内、現在までの10キロの道のりで倒した数は10匹。

 何のためにこんな事をしてくるのか、さてはこれから始まる最終決戦への布石か。

 それが分かるのは、やはりこの後に必ず起こるであろう戦闘の直前であろう。

 無言のまま、ユリアとクレイズは足並みを揃え歩き続ける。

 第六感的感覚が二人にこの森での最後の戦いが近いことを暗に告げる。

 緊張の面持ちで周囲を警戒しつつ、目的地へと向かう。

 敵の総数はもう数え切れるほどに減少しているはず。そしてこの近辺で全力で戦える場所といえば、少し先にある中規模の広場。

 その直径百数十メートル程の円状の広場には大木の代わりに草が生い茂っている。

 約二時間の歩行で時刻はちょうど夜中の丑三つ時を少し過ぎた辺りだろう。この時間、あと半時ほどは霊体の動きが一日の内で一番活発になる時間帯。

 反対に、霊体の動きが鈍くなる昼間の14時と比べれば約3倍の活性度を示す。

 『―――――――なるほど、敵はこれを待っていたってことね。それで私達の到着時間を操作するために所々に邪魔な敵を配置していたと。』

 逃げ回るだけの行動をする白骨狼も道中に仕掛けられていたため、それで説明が付いた。

 骸骨公は10体のスカルハウンドを生贄に時間を稼ぎ、霊体活性を3倍に引き上げる方が味方の勝率上昇を齎(もたら)すと結論したのだろう。

 もう残り数十秒でこの大木の茂みを抜け、広場へと到着する。

 二人は再度、己の内に覚悟を決めた。

 『『―――絶対に、生きて帰ってみせる』』

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