「来マシタカ、N0.666(オーメン)。……まったく、オマエは何時まで経ってもノロマな愚図だな、えェ?」
「―――――――。」
薄暗い陰湿な空間。じめじめとしたその部屋には映像モニタが壁に数十個配置されていた。
そこには都市内のあらゆる場所が映っては消え、映っては消え、点滅を繰り返していた。
その場にいる男は、右目が隠れそうなほど長く白い前髪を右側だけ垂らしていた。その肌は病的に白く、顔全体は爬虫類を連想させる。
他人を喰ったような喋り方はネットリとしており、聞く者の背筋に寒気、不快感を催す。
その男―――――現、第8都市治安維持局局長であるリヒター・オブライエンは目の前の人物を見下ろしていた。
「さァテNo.666(オーメン)、オマエには今回、ある人物の奪還命令を与えマス。なぁに、オマエの実力ならば何も問題無いハズダァ。」
オーメンと呼ばれた人物は全身の大半を黒いジャケットで覆っていた。目には黑色の暗視バイザーを掛けており、その表情からは何も読み取れない。
「その奪還対象となるのがコレデス、見なさィ」
映像モニタに移されたのはある少女だった。その髪はサラサラとした美しい紅。2つに結んだ髪は揺れ、隣にいる姉らしき女性の腕に抱きついている。
ガラスのような瞳に、整った顔立ち、透き通るような白い肌、花が咲いたような笑顔……それら全てが彼女を見る全ての人を魅了する。
「彼女の名はエミリア・ハートレッド。ワタシのある知人の娘でしてネ、そいつがこのワタシに頭を下げてを頼ってきたのですカラ。無下にも出来ないデショウ?あそこでヤツの頭を踏みつけ、断ることができたらどんなに心地よかったことか……マァ、それはいいのデス。オーメン、とある筋から得た情報によると、ターゲットはこの範囲内に監禁されている可能性が高いことがわかりましタ、どういう意味か、オマエなら分かりますネ?」
映像モニタに表示された赤い部分のを指して言った。
「ヨロシイ、なら行きなさイ。頃合を見計らってワタシも後で行きますヨ……後で、ネ」
リヒター自体がこの薄暗い建物を出るのが稀有なためか、No.666(オーメン)は訊き返した。
「局長自ら……ですか?」
――――――――バチンッ
「このワタシがこの穴倉から出るのがそんなにメずらしいカ!?テメェは黙って言われたとおりの仕事をやってりゃ良いんだヨ、このゴミ屑が!誰のお陰で今まで生きて来れたと思ってる!?ア゛ァ?」
いきなり顔面を殴り飛ばされたオーメンは一切悪びれる事無く目の前の男に謝罪の言葉を述べた。
「……スミマセン、局長」
リヒターは殴りつけるようにオーメンに依頼書を渡し、そのまま黒ずくめが出ていった後、この建物の最上階に位置する自室に戻った。
「アハハハハハッ!やっとだ、やっと見つけマシタよォ!あの裏切り者めガ、このワタシが直々に殺してやロウ!……今日はなんと素晴らしい日なんデショウか!オーカーから手に入れた情報から、不穏分子をポータルをイジって都市外へ追放することもできましたシ!」
リヒターの嘲笑は暗い部屋に響き続けた。