自作小説

【第1部第1章13節】Crisis Chronicles

 ――――――――十数時間前。

 クルス霊森の入り口にノルクエッジを十台ほど駐車させた『GunSlinger-ガンスリンガー-』のメンバーは装備を整えて作戦の確認を行なっていた。

 巨樹の根に、ユリア以外の全員がダークスーツに白シャツ、赤いネクタイを纏って向かい合うように腰を下ろしている。

 「11人。ちゃんと揃ってるわね!今日の依頼は討伐よ。敵は硬質の骨男。対物弾を切らさないで」

 ユリアが全員に向かって声を上げる。同時に、空中にクルス霊森の全体図が投影される。

 「現在のクルス霊森内は霊体濃度が濃過ぎて粒子型映像送信機(P.I.M.M-Particle-based image messengers machine-)が使えないから、各組は予備も併せて二本のジェネレータの支点を持って行くこと。幸い、まだ比較的近距離での通信機と視界確保は出来るから、できるだけ早く依頼を完遂させるわよ。」

 それから数分間が経ち、ブリーフィングは何事も無く終わろうとしていた。

 「ねえ、ユリ姉ぇ、目標の捜索方法は外縁部から分散しての収縮型だけど、やっぱり少数でいるとこに鉢合わせしたら危ないよね?」

 ニーナが猫のような形の目を伏せながらユリアに告げる。

 「大丈夫よ、ニーナ。あなたの相棒のルイがちゃんと後ろを守ってくれるわ。もし危険な状況になったら二人で派手に音を立てながら逃げなさい。すぐにみんなも駆けつけるから!」

 「ん~~。んっ!分かった、ユリ姉ぇ!今日も頑張るね!」

 自分で頷いてニーナは茶色のショートカットヘアを揺らした。

 「じゃあ、依頼開始まで他に質問のある者は?」

 ユリアが集合した10人の仲間を誇らしく、ゆっくりと見渡す。

 「……よし、じゃあ、作戦開始!」

 各員はノルクエッジに乗り、クルス霊森外縁部の担当位置まで散開した。

◇◇◇◇

 ――――――クルス霊森内。

 『チームリーダーへ、こちらアルファ1。』

 『こちらチームリーダー。何があった?』

 『いえ、別に作戦には支障ありませんが、少々予定より霧が濃くなってきています。視界確保のためにバイザーを装備したほうがよろしいかと……』

 仲間の一人である黒髪長髪の少女。一葉はマクシミリアンD88(ドミネータ・ダブルエイト)と呼ばれるスナイパーライフルを担ぎ、右手にハンドガンを握りながらヘッドセットに声をかけた。

 ―――――妙ね。霊体濃度の上昇が安定しない……。一体この森に何が起こっているのかしら……。

 『了解した。チームリーダーより各員へ。ポイントR-7周辺で濃霧が発生している模様。視界確保の為に全員バイザーを付けること』

◇◇◇◇

 クルス霊森に入ってから2時間が経過していた――――

 ユリアはバディのオッヅと共に先のミーティング場所から真っ直ぐ第二次警戒区域の手前にまで到達していた。

 「ここが一次警戒網限界地点ね。オッヅ、何か見える?」

 禿頭の大男は周囲を見回し、どこか落胆したように首を振った。

 「リーダー、何もいない……生き物一匹見当たらない。これは、何か妙だ。」

 「そうね、オッヅ。でもみんなが着くまで探索はここで止めておくわよ。」

 ユリアは周囲の様子を一望し、胸ポケットから1本の金属棒を取り出した。指し棒のように多段階的に収納されていたそれを引き伸ばし、1、5メートル程の金属棒を作り上げた。

 それを真下の地面へと垂直に突き刺し、倒れないようにしっかりと固定した。

 「これでよしっと。後はみんなの設置を待つばかりね。」

◇◇◇◇

 同時刻、ニーナと蒼いショートカットヘアの少年のルイもまたポイントにたどり着き、限定範囲内生体探知機である金属棒を地面に刺したところだった。

 この金属棒は5本1セットで所定の位置に突き刺し、出来上がった五角形の内部に存在する中型生物の情報を腕のUADバングルに送信するという代物だった。

 加えて都市の情報集積庫(アーカイブス)にもリンクしており、必要とあらば目標生物の生態系までも即座に検索を掛けられる。

 ―――――――ただし、その生物が情報集積庫のデータベースに載っていたならばの話だが。

 唯一の欠点は手間が掛かることと探知範囲が比較的小規模であることだが、様々な機材を購入して多少金欠になっている『GunSlinger-ガンスリンガー-』には仕方の無いことだった。

 「なぁ、ニーナ、あの映像で見た骸骨。硬そうだったよな?」

 「なぁに弱気になってるのよルイ。キミはまだギルドに入って一年だけど、ウチの強さは分かってるでしょ?」

 フッとルイは一息付く。ギルドに入ってからというもの、ニーナはリーダーに過度の期待をしている。まるで、どんな窮地でも一瞬で戦況を一変してしまう様な―――――。

 「そんなこと言われなくても分かってるよ。でもリーダーだって万能じゃないんだ。俺達は自分で出来る限りの思考は働かせないと」

 諫めるような口調のルイに、ニーナは頬を膨らませ反論する。

 「むぅ、私がいつ、いつユリ姉ぇに頼ろうなんて言ったのよぉ?あのね、ルイはいつもいつも……って、あ、探知、始まったわよ」

 ギュイイインと金属棒が振動し、起動を開始した。

 「さぁ、ニーナ、これから第ニ回戦の始まりだ。先輩風を吹かせるならそれなりに働いてもらうからな」

 「わ、分かってるわよそんなこと!……さぁ、行くわよ」

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